以前ご紹介しました、第13回ヴァン・クライバーンコンクールの優勝者である盲目のピアニスト辻井伸行氏がクラシック音楽界最古のレーベルであるドイツグラモフォンと専属契約を結びました。これは日本人ピアニストとして初めてのことです。
ドイツグラモフォンとは1898年、円盤レコードの発明者、エミール・ベルリーナ氏によって設立されました。クラシック界の重鎮といわれる演奏家は必ずと言っていいほどこのレーベルからリリースされています。指揮者で言えば最もポピュラーな帝王カラヤン氏そして今年の二月に亡くなった小澤征爾氏もドイツグラモフォンの専属でした。
小沢氏がイタリアで初めてプッチーニのオペラ「トスカ」を指揮した時、解釈が違うと随分酷評されましたが、後に小沢氏は「イタリアで、イタリアのオペラを日本人が指揮することに違和感があったのでは」と語りましたが、やはり文化が違う所で活躍することは大変なことだったのでしょう。盲目というハンディーを背負った辻井氏の今後の活躍を大いに期待したいと思います。
4月16日、対米外国投資委員会の委員長を兼ねる米財務長官のイエレン氏は日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収に事実上の駄目出しをしました。イエレン議長はIMFの年次総会後の記者会見で「USスチールは100年以上にわたって象徴的な米国の鉄鋼会社で引き続き米国内で所有され運営されていることが不可欠だ」と主張してきたバイデン大統領の発言に振れる形で「大統領見解を受け入れている」と発言しました。
そもそもUSスチールは米国では2位の会社ですが世界的にみれば27位。1位の中国宝武鉄鋼集団の10分の一、1973年に日本製鉄の前身である新日本製鉄に世界一の座を明け渡すまで長年にわたりトップの座に君臨していた過去の面影はありません。そんな会社をなぜ?
実はこれには11月の大統領選が大きく絡んでいることが見逃せません。実はUSスチール従業員が加入する全米鉄鋼労働組合がバイデン大統領の出身母体である民主党の有力支持団体の一つに名前を連ねていることにあります。USスチールが工場を置くペンシルベニア州やミシガン州は大統領選激戦区7州に位置します。2016年の大統領選ではこれら激戦区の製造業労働者の票がトランプ氏に流れ、ヒラリー候補が敗れた経緯があります。
これは4月10日、訪米していた岸田総理とバイデン大統領との間でまとめた中国を念頭に置いた共同声明、「日米の相互投資の促進、経済面での連携強化」に反する行為です。要するにバイデン大統領は今や全ての政策よりも大統領選に勝利することが最優先なのです。
日本製鉄はこのM&Aに2兆100億円を投じる事により世界第三位の鉄鋼会社へ、そして電気高炉への事業転換といった起死回生の買収が挫折してしまったのです。日本製鉄はUSスチールに恋して盲目になりバイデン大統領の動向が読めなかったようですね。今やバイデン氏は大統領と言う地位に恋し盲目になっているのでは?